【生物】新しい分類・スーパーグループについて

2023年11月10日授業の先の研究を知る,生物学,分類学,生物学(共通テスト)

2023年現在、日本の学校で教わる生物の分類は、
五界説
3ドメイン説
の2つです。

しかし、生物学の世界では
修正六界説、あるいは七界説
が最新の分類であるとされています[島野(2017)]。

ということを前回お話してきました。

しかし、最新の生物学の世界では、もう一つ主流となっている分類が存在します。

スーパーグループ

これが今回のお話です。

既存の分類学の限界

現代分類学は分類学の父として名高いリンネから始まりました。
リンネ式階層分類です。

例えばヒトは、

3ドメインにおける真核生物

界は動物界

門は脊索動物門

綱は哺乳綱

目は霊長目

科はヒト科

属はヒト属

そして、種はヒト
学名は、Homo sapiens

というような階層構造をとっています。

ヒトの分類

しかし、こうした階層構造に基づく分類には大きな問題が存在しています。

それは、原生生物の扱い。

日本の教科書に従い、五界説を見てみましょう。

五界説

この内の右側、真核生物に着目すると
真核生物は、
植物界
動物界
原生動物界
菌界
に分けられています。

ですが、進化の歴史を考えてみるとおかしくありませんか?

真核生物の誕生は約20億年前とされています。

教科書などでは、北アメリカで発見された約21億年前藻類らしき化石が最古とされているでしょうか。

そして、最初の真核生物が単細胞であったことも間違いないはずです。
五界説に基づけば、原生生物に分類されるであろう生物です。

そして、その中から
菌類(真菌類)、動物、植物が誕生したと考えられています。

時期的に言えば
動物は、約8億年前
植物は、約5億年前と予想されています。

もうそろそろお気づきでしょうか?

真核生物の分類において、原生生物界と他の界が横に並んでいるのはおかしいのです。

原因は言わずもがな。
肉眼で観察できる生物を基準に分類が作られてきたから。
もっといえば、普段使用する分類としてはそちらの方が使いやすいからとも言えるでしょう。

これが、学校教育においてスーパーグループを扱わない一番の理由であると考えます。

スーパーグループとは

なぜ、スーパーグループという新しい分類を作る必要があったのかについて話してきました。
ここからが本題です。

スーパーグループとは、分子遺伝学に基づく真核生物の高次分類です。
原核生物の分類には用いられません。

発表されたのは2005年。
Adl, S. M. et al. (2005).
国際原生生物学会が発表したものです。

そして、最新版は2019年のもの。
Adl, S. M. et al. (2019).

ここからは、主にこの2019年の論文を元に説明していきます。

スーパーグループの内訳

スーパーグループは真核生物を

アモルフェア (Amorphea)
 ・アメボゾア (Amoebozoa)
 ・オバゾア (Obazoa)
   ・ブレビアテア (Breviatea)
   ・オピストコンタ (Opisthokonta)
   ・アプソモナダ (Apusomonadida)
・クルムス (CRuMs)
・マラウィオモナダ (Malawiomonada)
・ディスコバ (Discoba)
・メタモナダ (Metamonada)
ディアフォレティケス (Diaphoretickes)
 ・SAR
  ・リザリア (Rhizaria)
  ・アルベオラータ (Alveolata)
  ・ストラメノパイル (Stramenopiles)
 ・テロネマ (Telonemia)
 ・ハプチスタ (Haptista)
 ・クリプチスタ (Cryptista)
 ・アーケプラスチダ (Archaeplastida)

※和訳は[矢野ら(2020)]に準拠。

に分類しています。

赤太字が真核生物の二大系統です。

そして、ヒトが含まれるのはオピストコンタ (Opisthokonta)。
動物真菌+(襟鞭毛虫など一部の原生生物)の分類群です。

この襟鞭毛虫は、単細胞生物の中で動物に近いとされており、
従来は動物界原生生物界で遠かったものが、
スーパーグループでは、オピストコンタに分類されることで近縁性がよりわかりやすくなっています。

スーパーグループの課題

しかし、スーパーグループにももちろん課題が存在します。

使いにくさ

分類学や進化生物学では、以前の分類に比べて扱いやすくなるでしょう。
しかし、それ以外の分野ではどうでしょう?

動物や植物といった身の回りの大きい生物を上位においた分類の方が使いやすいです。

読みにくさ

アモルフェアオピストコンタ、アーケプラスチダ。

読みにくい。覚えにくい。
誰かが和名をつければ済む話ではあると思うのですが、現状つけられてはいないようです。
カタカナだらけで目が痛くなってきます。

正確性

これが一番の課題かもしれません。
分子遺伝学はその一歩を踏み出したばかり。

2012年発表のスーパーグループと2019年発表のスーパーグループでも、分類が結構変わっています。
研究はまだまだ始まったばかりなのです。

まとめ

アモルフェアオピストコンタアーケプラスチダくらいは覚えておいて損はないと思います。

アモルフェア、オピストコンタ

ヒトの上位分類。

アーケプラスチダ

細胞内共生したシアノバクテリアに直接由来する一次植物
陸上植物、緑藻、紅藻、灰色植物という光合成を行う多くの生物をまとめていうのに便利。
クリプト藻、褐藻、ハプト藻、渦鞭毛藻、ユーグレナなどは別の分類ですが。

スーパーグループの一覧

スーパーグループ
アモルフェア (Amorphea)
 ・アメボゾア (Amoebozoa)
 ・オバゾア (Obazoa)
   ・ブレビアテア (Breviatea)
   ・オピストコンタ (Opisthokonta)
   ・アプソモナダ (Apusomonadida)
・クルムス (CRuMs)
・マラウィオモナダ (Malawiomonada)
・ディスコバ (Discoba)
・メタモナダ (Metamonada)
・ディアフォレティケス (Diaphoretickes)
 ・SAR
  ・リザリア (Rhizaria)
  ・アルベオラータ (Alveolata)
  ・ストラメノパイル (Stramenopiles)
 ・テロネマ (Telonemia)
 ・ハプチスタ (Haptista)
 ・クリプチスタ (Cryptista)
 ・アーケプラスチダ (Archaeplastida)

※和訳は[矢野ら(2020)]に準拠。

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。